本章では,特に社会で脆弱な立場に置かれる人々に対して新型コロナウイルスの感染拡大が及ぼす影響の概要及び国際的な取組を紹介した上で,企業の留意点について触れる。
下記のような脆弱な立場に置かれる人々は,労働者として直接企業活動による影響を受けるにとどまらず,企業活動に必ずしも直接起因しない,むしろ社会構造による人権課題にも同時に直面しており,これらは相互に関連する。国内では,休校や在宅勤務により自宅で過ごす時間が長くなったことにより,子ども・女性・高齢者らへの虐待リスクが増加し,また子どもの世話や介護について女性の負担が増えている。少子高齢化が進み,介護の担い手不足が課題である日本において,介護サービスの制限が高齢者とその家族に及ぼす影響は深刻である。また,障がいのある労働者に対する合理的配慮も課題が多い。言語的な障壁のみならず,特定の人種に基づく差別的な言動も見られる。
現在の社会状況が各ステークホルダーの人権に及ぼす影響を多角的に捉えることが,新型コロナウイルスへ実効的に対応するために重要である。企業は,前章までの留意点を踏まえた上で,以下に述べる各ステークホルダー特有の影響について調査し,その影響を緩和するよう,既存の施策に加え積極的な支援を含む対応策を講ずることが期待されている。
(1)子ども
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休校措置等による子どもの世話をする労働者の負担の増加
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休校措置等や在宅勤務、収入の低下といった労働者への影響に伴う児童虐待をはじめとする子どもの権利侵害の可能性
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児童労働のリスクの変化
(2)高齢者
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高齢の労働者が負う経済的・健康上のリスク
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介護サービスが制限されることによる高齢者を介護する労働者の負担の増加
(3)女性・ジェンダー、性的マイノリティ
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在宅勤務や収入の低下が女性労働者に及ぼす影響
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在宅時間が長くなることによるDVリスクの増加
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新型コロナウイルス対応策について、計画から実施まで女性の声を反映させる仕組み
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性的マイノリティが受ける影響
(4)障がい者
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障がいのある労働者に対して、障がい特性に適した情報提供も含む、生活・就労環境の変化に伴う合理的配慮
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新型コロナウイルス対応策について、計画から実施まで障がい当事者の声を反映させる仕組み
(5)外国人
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多言語での情報提供の実施
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特定の人種等に対する差別・偏見の防止及び外部に対してこれを許容しないことの明確な意思表示
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